
これほどアトピーがかゆいのにお医者さんに「掻かないように」と言われるなんて、無茶いうな!って思いますが、科学的にも掻くとアトピーが悪化することは解明されているんですよね。
もくじ
イッチスクラッチサイクルって何?
アトピーは無性にかゆくてたまらない、無意識に掻いてしまうし、どうにも止められないという人がほとんどだと思います。
しかし、皮膚は掻くと余計にかゆくなるという仕組みを持っています。
それが、イッチ・スクラッチサイクル(itch scratch cicle)です。
イッチとは「かゆい」、スクラッチは「掻く」という意味の英語です。
イッチ・スクラッチサイクルとは、
【かゆい】→【掻く】→【皮膚が傷つく】→【傷ついた部分に炎症】→【悪化してもっとかゆくなる】→【さらに掻き壊す】→【さらに皮膚が傷つく】→【さらに炎症悪化】……という悪循環のことを表現しています。
掻けば掻くほど炎症が悪化し、かゆくなるという、残念なお知らせです。
アトピーは掻くと確実にかゆみが悪化する
これがイッチスクラッチサイクルの図なんですが・・・。
(引用元「なぜ皮膚はかゆくなるのか」 菊池新著)
例えば、アレルギーのある人が、アレルゲンと接触すると、マスト細胞にアレルゲンの分子がくっつきます。このマスト細胞は体の至る所にあります。
アレルゲンに誘発されてマスト細胞中の顆粒が放出され、中にあったヒスタミンが組織中にばらまかれます。するとかゆみが始まります。
かゆいと掻きますよね。皮膚を掻き壊すと、表皮細胞が傷つきます。
すると今度は、傷ついた表皮の細胞を修復するために、「インターロイキン1(IL-1)」や「腫瘍壊死因子α(TNF-α)」といった化学伝達物質が出てきます。これらを「サイトカイン」と呼んでいます。
サイトカインが出ることで、炎症が起き、皮膚炎が悪化します。
また、サイトカインが出たことで、「軸索反射」という反射も起きます。
軸索反射が起きると、はじめは皮膚の一か所だけがかゆかっただけなのに、いつの間にかその周囲までかゆくなってしまいます。
皮膚には、情報を集めるために神経が細かく分岐して存在していて、刺激があると神経末端から太い神経へと刺激が伝わり、脊髄に伝わり、脳に伝わるという経路をたどるのですが、末端の神経からの刺激の一部が、ほかの末端の神経を「逆走」してしまうことが起きるんです。
そうすると、別の部分もかゆみを感じてしまいます。
逆流した信号は、末端で、「サブスタンスP」という物質を放出します。サブスタンスPは本来痛みに関与する物質ですが、こいつが皮膚の紅斑を作り、マスト細胞からの顆粒放出をさせ、ヒスタミンを放出させるという動きをします。これによってかゆみはさらに増幅します。
こうして、かゆみに任せて皮膚を掻くと、掻けば掻くほど余計にかゆくなるという泥沼にはまることになるんですね。
ううう、嫌な話だ。
でも、ここまで仕組みは解明されているんですね。
ちなみに、このサイクルは、どこからでも回り得ることがわかっています。
まったくかゆくない場所でも、皮膚を激しく掻いて傷をつけると、その傷を治癒しようとサイトカインが出て炎症が起こってかゆみが発生するんです。
安易にぽりぽり掻いていると、なんでもないのに皮膚炎ができてしまうこともあるそうです。
アトピーは掻く癖をやめれば治りやすいが・・・
だから、お医者さんは、アトピーを掻くなと言います。掻くと悪化するから。
そんな無茶なと思いますが、もちろんそれは正しいです。
かゆみが我慢できるレベルであれば、できるだけ患部は触らないに越したことはないんですね。
でも、すでにアトピーが悪化して、掻きむしらずにはいられない状態になっていると、どんどん難しくなっていきます。
これを改善するには、どうすればいいのかといえば、イッチスクラッチサイクルの、どこからでもいいので、スパイラルの流れを断ち切る必要があります。
なので、慢性的にかゆみが続く場合には、速やかに皮膚科に行って、ステロイドや保湿剤、抗ヒスタミン剤をもらってかゆみを止めて、皮膚を傷つけないよう我慢しましょう!というのが皮膚科の提案です。
このレベルでアトピーが納まってくれてる場合は、必要以上に掻きむしることもなく、炎症をコントロールできます。
ところが、同時に悪化因子をきちんと特定して排除できない場合には、ステロイドを塗ってもおいそれと炎症は静まってくれません。
それを強力に止めようとする場合の方法は以下の通り。
方法1:とにかく掻かないよう拘束
主に夜。重症アトピーでよく見る光景。掻けないように手にミトンをつける。ベッドの柵に手を固定する。ボール紙を丸めて腕に通して関節が曲がらないようにして掻く行為を防ぐ・・・。など。
方法2:患部に亜鉛華軟膏を塗って包帯でぐるぐる巻き
方法3:ステロイド含有テープで患部を覆ったり、ステロイド塗ってラップで密閉し、炎症を沈めながら患部を掻けないようにする。
どうにか、掻かないで、皮膚炎を抑え込む方法をとりますね。
現実は厳しい
実際問題、かゆみが強くなっていると、掻かずにはいられないです。ステロイドを塗っても追いつきません。
夜寝るときに手袋しても、夜中に勝手に外して爪で掻きむしる。
手を拘束しても、朝になったらすべて外して掻きむしって血だらけになる。
工夫をしても、掻くという本能が上回り、無意識にどうにかして掻きむしろうとするものですよね、手が勝手に。
絶対に掻かないと強い意志をもって毎日工夫と努力を重ねるものの、かゆみが勝ってしまうために、結局はやっても無駄だと感じて掻きむしるがままにしてしまう人も多いと思います。
私も手を縛ったりしてみたけど、ダメでしたね。ひもでベッドの端に手を結び付けていましたが、ビニールひもだと夜中に引きちぎってましたし、手袋プラス布紐でやっても、顔や体をベッドにこすりつけて掻くので、朝の体力の消耗が激しかったり・・・。
亜鉛華軟膏塗って包帯をしても、包帯の上からものすごい力で掻いてしまい、結局包帯と皮膚の間で摩擦が起きて血だらけになったりしていました。
血だらけになって痛いほうがまだ楽なんですが、明け方傷の痛みを感じて眠るころには毎日後悔しておりました。
日中はできるだけ理性で掻かないようにできないこともないけど、夜は本当に難しいな・・・と思います。
ちょっとでも掻く機会が少ないほうがいいのはわかってるんですけどね。
イッチスクラッチサイクルの効果的な止め方
じゃあ、掻かずにはいられない泥沼に陥ったらどうするの?ということなのですが、結論から言うと、イッチスクラッチサイクルの全部の面からアプローチするんです。というか、それしか方法がない。
頑張って我慢しても掻いてしまうなら、他の面からも積極的にアプローチすべきです。
ステロイドで皮膚炎の悪化を食い止め、掻かないように努力しても、皮膚の炎症が出ている限り、イッチスクラッチサイクルは回りだしてしまうのですから。
逆に、サイクルのすべての面をまんべんなく改善していくと、無理がありません。イッチスクラッチの全体のレベルが落ちてくると、サイクルの断ち切りも容易になります。
もう一度見てみます。
ステロイド → 皮膚炎の悪化を抑え込む
抗ヒスタミン剤 → かゆみを感じることをブロック
表皮細胞が傷つく → 保湿による皮膚の保護、修復促進
皮膚科が協力してくれるのは、ここまでです。
そして自分で、
掻破 → 掻かないように理性で努力
でもこれだけだと、かゆみと根性で戦いながら、ステロイド依存のリスクを抱えてしまいがちです。
炎症が起きる
これをどうにかするのも大切ですよね。
じゃあ、炎症が起きるのを防ぐには?ということなのですが、アプローチは3つ。
1.悪化因子・アレルゲンを特定して排除する
・IgE抗体やパッチテストで特定したアレルゲンを排除する。
・便秘による腸内の老廃物停滞を改善する
これらは炎症を生み出す原因を取るってことですね。
アレルゲン除去はもちろんのこと、体内、特に腸内での排泄物の腐敗による炎症物質も体にためないようにする必要があります。
2.酸化、炎症を強める食べ物を避ける
・ショートニング・オメガ6系の油を食べない
・市販のスナック菓子、揚げ物(酸化した油)を食べない
・砂糖を摂らないようにする
・化学調味料・保存料・合成着色料をとらない
3.炎症を強くするものを避ける
・喫煙
・飲酒
・激しい運動
・過剰な紫外線
・大気汚染・排気ガス(マスクや空気清浄機使用)
・過剰なストレス
・過剰な疲労
ひとまず、炎症を悪化させる要因を取り除くことが最優先です。
よく、こうした炎症をとるために、抗酸化物質をサプリや健康食品や食事で補おうという話があります。それももちろん大切です。
ただ、いろんなものを取り入れるよりも、悪いものをマイナスするほうが、優先です
炎症を生み出すものを抱えて、サプリや健康食品をとっていても、打ち消しあって効果が出ずに、お金ばかりかかるということになりかねません。
できる限り悪いものを排除します。お金もかからないし、楽です。
それでも追いつかない状態だったり、仕事や住環境が悪くままならないのであれば、本当に効果がある抗炎症サプリなどを使うといいと思います。
おわりに・まとめ
・イッチ・スクラッチサイクルは、掻くと皮膚炎が悪化する魔のサイクル
・掻くほどに皮膚のかゆみは増すことが科学的にわかっている
・イッチ・スクラッチサイクルはどこからでも始まるし、どこかを止める必要がある
・重症の場合は、サイクルのすべての面にアプローチすると解決が早い
かゆみが我慢できるレベルなら、掻かないに越したことはないです。できるだけ患部は触らない。
でも重症で難しい場合は、掻いた自分を責めずに、いろいろな角度からできることをやるほうが、経験的には効果があると思います。悪化因子が取れて、ストレスが減って、治癒力が追いついて来たら、掻いていても治ってきますから。